初心者が「ヴェイパーフライネクスト」を履きこなす走り方
2020年のお正月から陸上界を大きく騒ぎ立てているのが、「ランナー」ではなく「ランナーの足元」であることは間違いないでしょう。
令和初めの箱根駅伝を制した青学陸上部の原監督が言うように「走っているのは“シューズ”ではありません! 選手の足と心臓です!」と強く言い放ったように、シューズだけでマラソンや駅伝の記録が伸びるものではありません。
ただ、ニューイヤー駅伝しかり、箱根駅伝しかり、各区間の「新記録ラッシュ」でもはや明らかになりつつある、ナイキのヴェイパーフライネクスト。
特に目を奪われた「ピンク厚底シューズ」、そして箱根駅伝ランナーの多くが履いていたEKIDEN PACKの左右色違いのヴェイパーフライネクストは、ランナーのみならず、走らない人まで目を奪われた存在になりました。
そんなヴェイパーフライネクストに注目しつつ、気になるのが「値段」「初心者でも履いていいのか」「ヴェイパーネクストを履きこなした走り方」では?
今回、Tさんのインプレッション、そして筆者もためし履きしてみた感想を踏まえつつ、この3つのアンサーをお届けします。
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初心者が「ヴェイパーフライネクスト」を履いてもいい理由
多くのランナーが「俺・私なんかの走力で、ヴェイパーフライネクストを履いていいのか……」と悩んでいるそうです。
これに関して「むしろ履くべき」と唱えるのが、Tさん。サブスリーランナーでハーフマラソン1時間20分、10kmのベストタイムは35分台というランナーです。
初心者の多くは「箱根駅伝ランナーが履くシューズを履くレベルではない」と言いますが、むしろ「履いたほうがいい」のが、正しい走り方を身につくことができるシューズでもあるからです。
私自身は「フライニットを履きこなす!初心者ランナーにも「ズームフライ フライニット」がおすすめな理由」でナイキズームフライ フライニットを「初心者ランナーこそ履くべき」と主張していましたが、ヴェイパーフライネクストは「それ以上」と言っていいでしょう。
その理由は6つあります。
- クッション性のアップ
- 反発力がフライニットより高い
- 足を保護する厚底
- 正しい走り方が身につく
- ピッチ走法でもストライド走法でも適合する走り方が可能
- 省エネ走法ができる
巷では「ズームフライ3で十分」という声はありますが、軽量性はむしろ初心者ランナーこそ味わうべきなのが筆者の主張です。
重いシューズは練習で履き、レースでは軽量シューズで走るべき。
なにより、ヴェイパーフライネクストは「厚底」なので、身の丈に合うペースならばヴェイパーフライネクストで問題ないわけです。
ヴェイパーフライネクストを履きこなすには「腹筋強化」をしたほうがいい
ヴェイパーフライネクストのみならず、厚底シリーズのフライニットを履いたランナーにもわかるのが「勝手に前傾姿勢に近いフォームで走ってしまう」だとか「ピッチが勝手に上がる」といったことです。
まず第一前提として、「骨盤が後傾しているランナーは、速く走ることが難しい」ということがあります。骨盤が後傾していると、ストライドも大きくならず、いわゆる“ちょこちょこ走り”になるためです。
大きなストライドを描き、地面の反発を利用してより多くのケイデンスを描くランナーこそヴェイパーフライネクストの良さがわかるようですが、骨盤を前傾姿勢させるために必要なのが「腹筋」です。
勘違いされがちですが、骨盤を前傾させる=上半身を前傾させるではありません。上半身はナチュラルに直立させ、骨盤を立てるようにしてヒップアップさせるのが、足の回転を速める&大きなストライドを生み出すコツ。
実はこのヴェイパーフライネクストがまさに「足の回転を速めること」に一役買っているのですが、骨盤を前傾させるには「腹筋」で支える必要があります。
いくらサブスリーランナーでも、駅伝になると遅いランナーは骨盤が後傾していることがあります。
逆に言えば、フルマラソンで「初心者」というランナーでも、腹筋を強化し、正しいランニングフォームで走ることができていればヴェイパーフライネクストを履きこなすことができます。
ヴェイパーフライネクストを履きこなすには「ふくらはぎより、膝上の脚の筋力」を強化
ご自身で鏡に向かってみてください。
大きな太もも・細いふくらはぎ……これはアフリカ人ランナーに多い特徴です。
「なぜか?」
率直に言えば、多くのアフリカ人ランナーはふくらはぎはあまり使っていません。大腿四頭筋・ハムストリングス・腸腰筋・腹筋全般・背筋・腕のリズムでスピードを得ているからです。
言い換えれば、ヴェイパーフライネクストを履きこなすにも同様のことが言える=フォアフット気味に走るアフリカ人ランナーと同様の走り方を得ることができるのもメリットと言えるでしょう。
特にヴェイパーフライネクストを履きこなすには「大腿四頭筋・ハムストリングス」は強化すべきです。
あの猫ひろしさんがよくアドバイスするのが「フルマラソンを快走するには、スクワットがとっても大切です!」ということ。これは書籍『走る奴なんて馬鹿だと思ってた | 松久 淳 』のエピソードにもあります。
普段、走ってばかりの人で筋トレをしない人は「スクワット」を取り入れることも、ヴェイパーフライネクストを履きこなすことになる近道になるでしょう。
ヴェイパーフライネクストの費用対効果は?本当に400km持つか
なんといってもヴェイパーフライネクストで気になるのがお値段。30,000円といえば、身の回りのものなら何でも買うことができるお値段でしょう。筆者にはとても買えません、残念ながら。
ただ朗報といえば朗報なのが、ヴェイバーフライ4%が耐久力160km程度だったのに対して、ヴェイパーフライネクストは400km。ただしこれ、あの箱根駅伝を解説した渡辺康幸さんが「もって100kmでしょう」と発言したことがあるように、実際にパフォーマンス発揮できるのはそれぐらいだと思います。
例えばアディダスであれば、Adizero takumi senがレーシングシューズの代表例。このシューズでも、だいたい100km足らずで最大のバネを感じることはできなくなってしまいます。
Tさんも「まだ100km以上走ってないけれども、今後が怖い」と言うように、値段が値段だけに費用対効果は“低い”と言わざるをえない結果が待っているかもしれません。
であれば、ズームフライ3のように、約100gヴェイパーフライネクストより重くても買うべきシューズはあるかもしれません。
本題!ヴェイパーフライネクストを履きこなす走り方
さて、これまで多くのヒントはあったものの、できれば今の状態でヴェイパーフライネクストを履きこなしたいと思う人が多いのは当然でしょう。
手っ取り早くではないですが、ヴェイパーフライネクストを履きこなには……
- 腕立て伏せで腕振りをスムーズにこなす
- 腹筋強化
- 骨盤を立たせて走る(お腹を引っ込めるイメージ)
- あくまで脱力してテンポを刻む
- 無理なペースを刻まない
- ペガサスターボやフライニットで走り方を研究する
ってところです。
なんのひねりもありませんが、地道に自分のフォームを見直す&必要な部分の筋力を強化することは、走力アップ&ケガ予防にもつながります。
「初心者だけど、ヴェイパーフライネクストを買う勇気がない……」
そんな心配は無用。
走りこなすレベルとコツさえつかめれば、PB更新は間違いないでしょう。
ヴェイパーフライネクストを初心者が履いてもよいかのまとめ
今後、あの水着のように規制すらささやかれる「ヴェイパーフライネクスト」ですが、筆者はそう思いません。
シューズは武器であるものの、走るのはランナー。
あくまでシューズは、ランナーの補助であるべきということは、これまでのシューズと何ら変わらないからです。
今後、他社メーカーがどのように追随するかにも注目して、ヴェイパーフライネクストを履きこなしてください。
【取材協力】
Tさん